忘れん坊の外部記憶域

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ベーシックインカムの懸念~弱者の切り捨てにならないか?

 維新の会がベーシックインカムを公約に掲げたためか、久しぶりにベーシックインカムが話題のトレンドに上がっているようです。しかしながら議論の中身はどうにもまとまりが無く、賛成派と反対派がそれぞれの主張を述べているだけのように感じます。

議論自体の課題 

 そもそもの課題は、ベーシックインカムの定義が曖昧な状態だということです。

  • どういう仕組みで
  • 財源はどこから持ってきて
  • 考えられるメリット・デメリットは何があるか

という議論の根幹・ベースが定まっていない状況のため、それぞれが言いたいことを言い合うだけになってしまっています。細かいところを拾っていくと無数の意見があるため、大まかなところを考えてみましょう。

 まず働く意欲など人の気持ちについては議論するだけ無駄なのでやめましょう。仕組みが具体的に決まっていないのに人の気持ちの変化について語っても水掛け論です。月3万円ならば働くが月10万ならば働かないという人もいるでしょうし、私のように仕事が好きな人間はいくらもらっても仕事を辞めないでしょう。財源についても同様です。まずはどういう仕組みにするかが決まらないと費用の試算なんて出しようがありません。前提となる仕組みがまずは優先です。

 また諸外国で行われている実験的なベーシックインカムもまだ議論の範囲には入りません。経済に関してはどうしても規模の影響が大きく出ますので、家庭、自治体、政府といった異なる単位ではお金に関する考え方をそのまま一緒にすることはできません。東京でできる経済政策が田舎の小さな村で同じようにできるわけではないのです。日本と同程度の経済規模を持つ国家が導入して初めて比較が可能になります。

ベーシックインカムの課題 

 さて、仕組みは大枠として2つの意見がありそうです。

  • 現行の社会保障制度を廃止してベーシックインカムに一本化する
  • 現行の社会保障制度は廃止せず給付対象を選択的に選ぶ

 主流なのは前者の一本化案でしょう。後者の選択的な給付であれば既存制度の変更や拡張によっても実施できるため、わざわざベーシックインカムという枠で議論をする必要がありません。制度を一本化して一定額を平等に分配することができれば、今まで分配に掛かっていた諸経費を削減できます。給付金額次第ではその削減分で賄えるでしょう。

 ここで課題になるのが従来の社会保障制度との差異です。一定額を平等に分配した場合、従来の仕組みよりも損をする人と得をする人が出ます。従来の仕組みのほうが利得が多いということ、今は多くもらっていてそれがもらえなくなる人々、つまり一定額を平等に配布した場合に損をするのは低所得層や障がいを持つ方といった社会的弱者です。

 社会的弱者には選択的に多く給付するというのはダメですよ?それであれば先に定義したように既存制度で対応している範囲ですので、ベーシックインカムの枠で議論する必要がありません。

 「平等に分配すると今まで多くもらっていた社会的弱者が損をする」

という、嫌な言い方をすると弱者切り捨てをどうすべきかという課題が解決できないとベーシックインカムの導入は難しいと思われます。

 

 今もらっている分を下限としてそれよりもたくさんお金を配ればいいのかもしれません。そうすれば収入の純増となり皆が得をします。

 しかしこの場合はやはり財源とインフレの問題が出てきます。

 主流派の経済理論で言えば財源は増税で確保することになるでしょう。たくさん分配してもその分税金が増えるのであれば正直意味がありません。

 MMTであれば国債発行で賄うことを考えられそうですが、その場合は市場に大量の貨幣が流通することになってインフレ率が上がるでしょう。彼らの理論で言えば増税なり金利上昇によるインフレ抑制が必要になる、つまり主流派と同様の結果になりそうです。

 よって収入の純増という形でベーシックインカムを導入するのも難しそうです。

まとめ 

 以上より、ベーシックインカムの導入は

  • 弱者切り捨てになりかねない
  • それを避ける場合は財源とインフレに解決方法が必要

と考えられるため、私としては日本でのベーシックインカム導入はまだ時期尚早かと思います。頭のいい方々にもう少し議論を続けてもらい、最適な方法を見つけてもらえることを祈ります。

 まあ、骨子も曖昧なまま慌てて導入することもないでしょう。日本は1億人以上の人口がいる大きな国です。エイヤで導入して失敗しましたなんてことをされても困ります。1億人以上の人生をチップにするようなギャンブルは避けて、確実かつ安全な方法を取るべきです。どっしりと構えて他所の国で上手くいったら追従すればいいんです。日本はコトラーの競争地位4類型でいうリーダーの戦略を取るべきでしょう。