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日本の生産性は低いのか~生産性に関する国際ランキングを見る

 よく話題に挙がるのが生産性の国際ランキングです。

 まず前提として、どの生産性を比較しているのかを確認しなければいけません。

生産性の定義

 生産性は大雑把に言えば(産出)/(投入)で計算されますが、投入単位は労働者1人当たりなのか時間当たりなのか、産出単位は物的なものか付加価値なのか、といったことによって比較結果も異なってくることになります。労働生産性の他にも資本生産性のように別の単位もあります。よって生産性を比較しているランキングを見るときは何をどう比較しているのかをまずは確認しなければいけません。

 

生産性に関する国際ランキング

 生産性に関連する有名なランキングは3つあります。世界銀行(World Bank)の発表する労働生産性ランキング、国際経営開発研究所(IMD)が発表する国際競争力ランキング、世界経済フォーラム(WEF)が発表する国際競争力指数です。

 世界銀行(World Bank)の労働生産性ランキングは就業労働人口1人当たりでのGDP(購買力平価)で比較しています。2019年のデータでは日本は36位です。

 GDPでの比較は少し難しいところです。例えばこのランキングでの上位はモナコリヒテンシュタインバミューダ諸島ルクセンブルクマン島などであり、全て実質的にはタックス・ヘイブンです。経済効率は良いのでしょうが実質的にはモノカルチャーの産業構造であるため、国家としての安定性が高いとは言えません。例えば日本でも付加価値生産性の低いサービス業や農林業を止めて国民全員が金融業に転職すれば1人当たりGDPは大きく伸びますが、金融危機が起きた際には国家が破綻することになります。そこまでして順位を上げる必要は無いと思いますので、全体的にバランス良く、が良いのではないでしょうか。日本はここ数年で落ち込んだというわけでもなく、30~40位あたりに位置しています。資源の無い国としては妥当な位置だと考えます。

 

 国際経営開発研究所(IMD)の国際競争力ランキングは20項目の指標と各国経営者へのアンケートから算出しています。2020年のデータでは日本は34位です。

 内訳を見るとGDP成長率やGDP比投資額などGDPに関連する項目が明確に足を引っ張っており、概GDPが原因と言っていいでしょう。

 このランキングはアンケートも用いていることから、経済の実態とは限らず経営者がそう思っているという意味合いもあります。

 

 世界経済フォーラム(WEF)の国際競争力指数はインフラや財政、人材といった12項目の指標と各国経営者のアンケートから算出されています。2019年のデータでは日本は6位です。

 内訳を見ると明確に足を引っ張っているのはマクロ経済の安定という項目です。具体的にランクの低い項目を見ると、社会資本・税制の複雑さ・採用と解雇の方法・クレジットギャップ・商品やサービスの輸入依存度・雇用の多様性といった項目でした。驚くほどしっかりと日本社会を分析しているなという感想です。

 反対に1位を取っている項目は健康と研究開発でした。健康はまあ分かります。日本の研究開発費用は年々減っているという印象がありましたが、人口当たりの論文数や特許出願数、研究開発費や研究機関の隆盛といった項目を総合すると今だ世界1位だということがデータから分かりました。

 

まとめ

 まとめますと、WBの労働生産性ランキングはGDP(経済規模と景気)の比較、IMDはグローバル企業の拠点としての魅力の比較、WEFは生産力を決める諸要素の比較、といった具合になります。どれが正しい、どの順位が高いから良い、とかではなく全部見て強み弱みを分析することが正しいランキングの使い方です。

 日本の強み弱みとしては、生産力には実力があるがGDPが伸びていないことが課題、社会構造によるところもあるが根本的には政策や金融の問題、つまり供給能力はあるが消費が不足していることが原因なので消費が伸びる政策をしてGDPを増やしましょう、というあたりでしょうか。

 

余談

 ちなみに生産性に似たような指数として米国会計事務所のデロイトが発表している製造業競争力指数というものもあります。これはアンケートによる分析ですが、日本は4位に位置しています。アンケートや分析の仕方によって順位はあっちこっちに変動するという良い例でしょう。

 メディアのニュースバリューとしては順位が低いほうが良いのでしょうが、ランキングの順位そのものにはさほど意味なんてないのです。重要なのは中身です。